ぷっちょろん

Open App

無垢




ピクっと動く指先を見て

「あぁ...完成だ」

白衣を着た60が近い一人の男が安堵した表情で力無くそう言った。
男の視線の先を辿るとそこには
床から天井まで届きそうなくらい
太い柱のような分厚いガラス管のようなものの中に
何かの液体で満たされ真ん中で色んな箇所に管を通され
立った状態で固定されたような50cmほどの人のようなナニか。

肌は全身透き通るように白く
金色の長い髪の毛をユラユラ靡かせ
一見人の子のようにも見えるがよく見ると違う。
手の辺りの表面にはうっすらと鱗のような模様の皮膚。
それに少し頭が大きく感じる。

「やっと...やっと完成した...長かった。」
目にはうっすらと涙が滲む。

男がいる場所はどうやらナニかの研究所のような所。
ガラス管の中の個体の閉じられた瞼がゆっくり開けると
そこには空のような薄い青が広がり白目を確認できない程の
大きな瞳。

「M3...お目覚めかい?僕が君のお父さんだよ!!
なんて可愛いんだ!!...本当に長かった..
父さんから引き継いで..君の鼓動を感じて今日まで
本当にずっと待ち遠しかった...」

人間の赤ちゃんのような希望に満ち溢れる無垢な存在ではなく
どこか神聖さ、怖さを感じる無垢な存在。
M3と呼ぶあたりどうやらこの個体はM3という存在らしい。

ガラス管の個体の身体から少しづつ管が抜かれていき
外の空気と馴染ませるためか太めの管のようなものを
触手のような細い機器達が口元に取り付け固定していく。

「美しい...これが龍神...
父さんが信仰心から神様って作れると思ってるんだよねー
って聞いた時は馬鹿げてると思ってたけど僕もバカの一人だよ。
あの胚からここまでやっと作れたんだ!!!
成功したからこの研究もやっと自分のものだ!! 」

どうやらこの男は父から人の信仰による思いのような
実態のないものの大きな思念体で胚を作る研究を引き継ぎ
個体にまで大きく育て動作を確認できる完璧なものを造ったよう。
父は残念ながら胚まで造れても
鼓動までは確認することはできなかったようである。
つまり失敗のまま年老いてこの世を去り
息子であるこの男がそのまま引き継いだのだ

ガラス菅の下の方にラベリングのようなものがあり
【M神社M3 20XX年5月31日】と書かれてた。
恐らく龍神と言っていたあたり
龍神を祀るMという神社なのだろう。

ガラス管の中の液体が上から下へと下がり出し
底の小さな排水溝から液体がどこかに流される音がした。

重力にかなわないのか液体と共に底へとへたりこむ個体。
ガラス管も上から下へとゆっくり下がり空間が開いていく。

男はゆっくり近づきそっと自分の手を近づけ
個体の肩に人差し指がソロリと触れる。
「水枕みたい」
一瞬ピクっと反応させた個体の身体だったが
男が触れた指先をスッと離すとその部分が
じんわりと桃色に色付いていくのを感じた。

熱を感知しそこから血が通っていくのか?と思ったが
それ以上肌が桃色に広がることも
色味が引くこともないから違うようだ。

男が近くに置いてあった白い大きなタオルで
濡れた身体の個体にフワッと被せ両手で覆うと
個体が口元の管が着いたまま突然声にならないような
叫び声を上げ暴れだした。

「M3どうした!!?なんだ!!?」
そう声をかけると下を向いていた固体が頭を上げ目を見開き
その表情は怒りを感じるような目付きで男を睨みつける。
一瞬怯みそうになった男だがきっと外気に触れ驚いたのだなと
気づき落ち着かせようかと抱きしめようとした。

するとまた叫び出し個体の爪が急に鋭く伸びて
両手で男の両脇腹をぶっ刺しそのまま手前に引き抜いた。

突然の事で男は理解出来ず口から血を吐き
目の前に正面から朱く染まった個体を確認した。

「...血?」

その瞬間痛みを感じ息が荒くなる。

個体も苦しそうに床でもがき
自分の手で自分の体をペタペタと抑えグルグル回り出した。

よく見ると皮膚が赤くところどころ水脹れになっている。
どうやら個体はバスタオルの素材の摩擦に男の熱を感じ
激しい火傷のような痛みを感じているらしい。


それを理解した男は自分が死ぬ前にと
M3の口元の管をズルっと無理やり引き抜いた。

「気づかなかった...」

男は嬉しさのあまり冷静さを失っていたのだろう。
早く我が子に触れたいがために...
研究者失格だなと声にはならないが口がそう動く。
更に苦しむその様を見ることしか出来ない男は
ゆっくり前かがみに崩れ命が尽きていく。

何も分からないまま苦しくて暴れる限り暴れ
何かの拍子にスプリンクラーが作動し水に濡れていく。
水に濡れていくことと冷やされていく身体に少し落ち着き
皮膚がゆっくり元に回復し身体が少し成長していく。

出入口がどこかも分からずそのまま留まるしかできない。

男は恐らく建物から成長を続けても
M3を出す事なんて考えていなかったのだろう。

倒れた姿の男に気付きM3がヒタヒタと近付いていく。

スプリンクラーで濡れた床に朱が広がる様を見て
汚いモノを見るかのように本能的に一瞬顔をしかめ
身体ごと背け壁へと駆ける。

壁をペタペタと何かを確認するように触っているが
途中でカクンと膝から崩れ落ちる。
一生懸命立とうとするが力が入らず立てない。
そのまま横たわりゆっくり瞼が閉じて鼓動が途絶える。


人に造られても紛いなりにも
無垢で清らかな神様なのだろう。
物事がわからない状態でも
人如きに造られた事も気に食わなかったんだろう。
しかし、M3という個体を造ったのも人間で
生かされたのはこの男の強い思いなのだ。

人の思い、信仰心が途絶えた瞬間神様も途絶えてしまう。



回り続けるスプリンクラーの音と水の音だけが室内に響き渡り
一人の男と1つの個体の体を冷やしていく。



____________________

初めて文章を作りましたが難しいですね💦
読みにくくてすみません!!
無垢と聞いたらなぜかSFになっちゃいました🙇‍♀️



5/31/2024, 2:38:29 PM