お気に入りの香水がある。
今でこそ香水が大好きな私だが、かつては香水の香りが好きでは無かった。むしろ嫌いだったのだ。
香水をつけて投稿したクラスメイトと喧嘩になったことすらある。
そんな私が香水に魅了されたのは、忘れもしない、大学1年生の初夏だった。
その日私は、大学へ向かうためにいつも通りに電車に乗った。だが、理由は忘れたが途中の駅で降りたのだった。
サボろうという気があった訳でもないと思うが、どうしてその日、途中の駅で降りたのかは残念ながら覚えていない。
降り立った駅には商業施設があった。
それほど巨大な施設ではなかったが、雑貨店やファストフード店、本屋、服屋、そして香水ショップが入っていた。
その年の大売出し商品だったのかも、覚えてはいない。
だが、その香水はショップ中央の目立つ位置に沢山置かれていた。
香水は三日月の形をした可愛いフォルムをしていた。
月の形に目を惹かれ、試しにムエットで香りを嗅いでみた。
その時の感情は、驚きと憧れ、と表現したら良いのだろうか。
甘いだけではない爽やかさをもちあわせた香りだった。
どこか儚げで神秘的な感情すら想起させた。
金額はたしか、2800円ほどだったか。
当時の私はまるで無駄遣いをすることの無い、なんとも真面目な大学生だったので、財布には1万円が入っていた。
あれほど嫌っていた香水を、気づけば私は購入していた。
それ以降、たくさんの香水を手元に迎えた。
今では廃盤となり、見つけることすら難しいあの香水は使い切ったのだけは覚えている。
現在は違う系統だが、リンゴの香りの香水を身にまとっている。
こちらも甘さの中に爽やかさがあり、季節を問わず使えるため、ハンカチなどに吹きつけて使っている。
あの香水は、わたしに新しい風を吹き込んでくれた。
懐かしい思い出と共に蘇る淡く優しいあの香りを、わたしはきっと死ぬまで忘れないだろう。
2/18/2024, 8:53:48 AM