明良

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大掃除をしていると、昔使っていた日記帳がでてきた。
誕生日に貰ったもので、せっかくだからと書き始めたのだ。
内容は、今日は誰々と遊んだ、今日はこんなものを買った、読み始めた漫画が面白い、もうすぐ始まるドラマが楽しみだとかといった単純な内容で、添えられた友達や好きなキャラクターのイラストやプリクラからは悩みなんてなさそうにみえた。
ページをめくっていくと、だんだんと日付が空いてきたり、とくになし、とだけのページが出てきて、飽きて書くことがなくなってきたのが読み取れた。
雑になった空白が多いページを飛ばしていくと、いちごや、ブルーハワイの匂いがするカラフルなページとは違って、鉛筆の黒一色のページがでてくる。

「やっと一年が終わった! もうあいつらと同じクラスになりませんよーに!」

そうだ。あのときだって悩みは確かにあったし苦しんでいた。書き出してしまえば忘れられるとも言うけれど、私はキラキラした日々に灰色の時間を入れたくなかったし思い出したら嫌で、何も書かなくなったのだ。自分のなかでだけでも、なかったことにしたかった。

数ページ戻っていくと、ちらほら書き込みがある日もあった。
「手紙回されて悪口言われてた。さいやく」
「もうわざわざ教室にいるのやめよ、明日から図書室いく!」
「お母さんが電話した、明日おわる」
「あやまらせた! ざまあ」
「あやまったあとに手紙でお前もわるいからあやまれっていわれた、お母さんもまた怒った。はなしつーじない、むし!」
フキダシで、またいーつけてやろうか、と書かれているのをみて、強気な自分に笑った。

今の、少し器用になったように見えて、実際は周りも自分のことも諦めて、傷つけられないように人波を何とか抜けている私より、この頃の方が誇らしくみえる。
実際は人と楽しく遊びたかったし、折れていなくともやっぱり惨めで、すぐに変わるものなら変えて欲しいと願っていたと思う。

あの灰色の時間を過ごしたわたしを、漸く抱きしめてあげられた気がした。

【私の日記帳】

8/26/2024, 3:06:40 PM