NoName

Open App

窓から見える景色

おれはコンビニ帰り、へんな看板を見つけた。
景色屋 とだけ雑に書かれた木製の看板が
道の端っこにある。
こんなのあったっけ…としばらく思い返す。
いや ない、きっといきなり建てられた看板だ。
なんだコレ…

じぃーっと見つめていると
後ろから声を掛けられた。

タダだよ 

え? 
振り向くと奇抜な格好のお爺さんがいる。

みんなのイチオシの景色みれるよ。
案内するよ

その瞬間、ふと気がつくと知らない場所に立っていた。
何処だろう?ここは。
おれは妙にワクワクしていた。
もしかして…異世界に飛ばされたりして…
そんな事を考えながら辺りを見渡す。
学校の廊下に似ている、しかし普通じゃない。

この廊下の先が見えない。
一目で行き止まりはないんじゃないかと感じさせる。
そして左右の壁には大きな窓が、互いに一定の距離を開けて
ずっとずっと見える範囲まで続いていた。

ここはなんなんだろう。そしてこの無数にある窓は?
おれはすぐ真横にあった窓から外を確認する。

そこは船の上だろうか。
窓の外には満点の星空、遠くには建物から漏れ出る光の数々が広がる。
音は聞こえないけれど、風に吹かれた感触がきっと
気持ちがいいんだろう。
遠くから街を見渡せる、美しい景色だ
こんなとこに行ってみたいな。

他はどうだろう?
もっと見てみたい
私は別の窓を覗き込んでみる。

夕焼けに染まった教室
雨の中のバスの停留所
夜のネオン街
朝日に照らされた海

個々の窓からは別々の景色が見える。
どれもこれも、とっても綺麗。
ここがなんなのかは分からない。
けれど気がつくとおれは夢中になって
窓達を覗き込んでいた。

ふと一つの窓に目を止めた。
まるでそこだけ、何かから誘導されている様に
目が離せなかった。

他の窓達とは変わらないのに何故?
どんな景色が広がっているんだろう。
食い入る様に覗いてみる。

そこには予想と反して、何もなかった。
真っ暗なテレビのスクリーンのようだ
その窓からは虚無が広がっていた。
なんだ。何もないんだ と独り言を言うと、
後ろから声がした。

「ここにはね、いろんなの人の思い出の場所が飾られてるんだよ。そしてその景色は君のものだ」

へぇー……そういえば、人生を振り返ってロマンチックとかドラマを感じた事ってあんまりなかったな

振り返るとさっきのお爺さんがいた。

「君の思い出の景色は真っ暗で何もないかもしれない。でもしょげないで、人生はドラマみたいに綺麗じゃないし、うまくいかないかもしれないけどさ」

おれはさっきの景色達を思い返していた。それぞれ、きっと
誰かの思い出の場所なんだろう。
感動した場所、泣いた場所、思い焦がれた場所、
おれにも、今から出会えるかな

「きっと出会えるよ」

気がつけば、あの看板の前に立ちっぱなしだった。
あのお爺さんはいなくなっている。
明日から…何か新しい事を始めようかな…
失敗してもいいから、自分の思い出の景色を作りたいと思った。























9/25/2023, 3:26:18 PM