NoName

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始まりがあった。遠い昔に。
嫌に洒落たテーブルの上に無造作に置かれている黄色の花の飾りも、今となっては冷たく硬質な作り物にすぎず、彼の存在だって既に似たようなものだった。
「ねえ、もういいよ。」
そう言って、私は手を離した。
「終わりにしよう。ね。」
「体に悪いよ。」と渋りながら誕生日に買ってくれたジッポが、カーテンの隙間から差し込む西日を受けて真っ赤なまま反射する。顔色の悪い彼の隣に雑に放ると、少しだけ、生気を取り戻したみたいに見える。
「じゃあね。」
時計の針が5時を指す。息を吸い込んで、一歩を踏み出した。窓の外、傾いた私の世界は、二度と戻らない。

7/15/2023, 12:16:13 PM