夜明け前
今日は元カレの誕生日だ。
私は彼のことをすごく愛していたし、別れてから半年近く経った今でも忘れられなかった。
彼と昔交わした約束。
「次の誕生日は必ず1番にお祝いするね」
きっと夜明け前の今、彼にLINEを送れば1番に祝えるのだろう。
彼は起きていないだろうけど。
彼は電話を切るのを嫌がって、よく夜明け前まで電話をしていた。
2人とも眠くて、だけど幸せで、2人っきりになったような誰も起きていない静かな空気が好きだった。
彼の優しくて少し低い声も、彼が語ってくれる日常も全てが好きだった。
バンドマンで歳下の彼とは、この夜の電話が唯一2人の時間だった。
彼はまだ、私に教えてくれたあの歌を好きでいるのだろうか。
今も誰かと電話しているのだろうか。
私はカーテンを開けて窓の外を見た。
光る街灯が眩しかった。
LINEを開くと、彼の名前を隠すようにたくさんの風船が飛んでいる。
久しぶりに見た彼のアイコンは、もう私が撮った後ろ姿ではなかった。
消せなかったトーク履歴を見て、彼と交わした言葉が蘇る。
「おはよう」
「おやすみ」
「ありがとう」
「好きだよ」
滲む視界の中、私は指を動かした。
これが彼に贈る最後の言葉だ。
「おめでとう」
9/13/2023, 1:55:56 PM