未知なもの。新しいもの。人並みに好奇心はあるものの、自分からそれらに手を伸ばすようなことはなかった。
停滞がいいことだとか、そういうつもりでもないのだが、全部投げ出してしまうには、大切なものが多すぎたから。
偶然から生じた「外」との交流はとても興味深いことが多くて、まだ知らぬ世界は、文化は心は躍らせた。おれの知ることがなんと少なくて、なんて限られたものだけに囲まれて暮らしているものか!
それでも、「外」へ行こうとは思わない。
愛しい少女も、幼馴染たちも、気心の知れた仲間もいるのだ。それだけでも、おれの世界は、閉ざされていてなお、美しい。
ただ、手紙に書かれていた、「いつか見せてあげたい」という、思いやりであろう言葉が、なぜか喉の奥に小骨のように引っかかっていて。
ーー明くる日、死体が発見された。
これまでの日常に大きく罅が入った音が、聞こえたような気がした。
11/28/2023, 11:50:27 AM