月園キサ

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#元ヤンカフェ店員と元ギャル男モデル (BL)

Side:Mikoto Ohtaki



9年前の春。当時23歳だった俺は、今までつるんできたパリピ仲間とは全く違うタイプの興味深い少年に出会った。

子どもたちが無邪気にはしゃぎ回っている中、彼1人だけが妙に浮いていたのを今でもよく覚えている。
…というよりかは、異様な存在感のある彼に誰も近づきたがらなかった。と言ったほうが正しいかもしれない。


『…何あの子、超クールじゃん…!』


初めて彼の姿を見かけた時の俺の感想がこれだった。
何故ならヴァイオリンが弾けるヤンキー中学生なんて、初めて出会ったから。

明らかにヤンキーだと分かる着崩した学ラン姿で淡々とヴァイオリンを奏でる彼と、彼の周りをひらひらと舞うモンシロチョウとモンキチョウの対比が、俺の目には美しく映った。


『Bravo~!すごいねぇキミ、ヴァイオリン弾けるの?』

『…ぁあ゙?テメェも俺のこと冷やかしに来たのか』


あの頃の彼が俺の褒め言葉を素直に受け取らなかった理由を知ったのは、確か彼がたった1人でヤンキー集団を制圧したのを目撃した時だった。

彼が言うには、最初は純粋にヴァイオリンが大好きだったけど、それを「ヲタク」だとバカにしてきたヤンキー集団を蹴散らしていたらいつの間にかヤンキーたちから恐れられる存在になっていたのだという。


そんな彼の名前は、樋上勇河。


『キミはすごいよ、勇河クン!だからヴァイオリンを好きだって気持ち、絶対なくしちゃダメだよ?はい、お兄さんと約束しよ〜う!』

『はぁ?お兄さんって…どう見てもオッサンの間違いだろ』

『も〜、またそうやって照れ隠しする!俺さんこれでもモデルだし!大瀧実琴って知らない??』

『あ?…あ〜、誰だっけか』

『うわ、ひっど〜ぉっ!!』



それから俺はモデルの仕事の合間を縫っては、勇河の演奏を聴きに公園を訪れるようになった。

バリバリのヤンキーだった中学生の頃は俺に聴かれるのをウザがっていたのに高校生になってからは俺を追い返さなくなって、そのうえ俺のことを「実琴サン」と呼んでくれるようになって…。

そして9年経った現在の彼はというと、まだヤンキー時代の口の悪さが抜けてなくてほんのりトガッてはいる…けど、音楽カフェで働きつつ大好きなヴァイオリンを続けている。


「ゆ、う、が、く〜ん♪ 来ちゃった♪」

「…はい、今日は何しに来たんすか実琴サン」

「ヴァイオリン聴かせて!」

「声がでけぇ!…てか変装しろよアンタ目立つんだから」

「え、俺さんがファンにお忍びがバレた時のこと心配してくれてるの…??え、優しいね…?」

「あ゙???んなわけあるか、とっとと注文決めやが…じゃなくて、注文決めてください」


このツンツン具合と完全には脱ヤンできてないところが可愛すぎ~~!!!!

他のお客さんと話している時は割とちゃんとした敬語で話しているのに、俺がカフェにお忍びで来るとあの頃から変わらないこのつれない態度が復活するもんだから俺の頬は緩みまくってしまう。


「何笑ってんすか」

「ん〜?別にぃ~??あ、いつもので!」


注文したアイスコーヒーを待っている間にカフェの外に目をやると、ずらりと並んだ花壇にモンシロチョウが遊びに来ていた。

モンシロチョウを見ていると、当時13歳の勇河少年のあの姿を思い出す。
あの日からずっと彼がヴァイオリンを好きなままでいてくれたんだなと思うと、何か心に込み上げてくるものがある。


「…ハイ、お待たせしました」

「おっ!ありがとうございま〜す!じゃ、後でぜっったいヴァイオリンの演奏聴かせてね?」

「気ぃ向いたらな」


…な〜んて言いつつ、いつも弾いてくれるくせに。

俺は勇河の反応にクスクス笑いながら、彼の淹れてくれたアイスコーヒーをお供にまったりのんびりと休日を楽しんだ。




【お題:モンシロチョウ】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・大瀧 実琴 (おおたき みこと) 攻め 32歳 人気モデル(元ギャル男)
・樋上 勇河 (ひかみ ゆうが) 受け 22歳 カフェ店員(元ヤン)

5/10/2024, 2:16:39 PM