金木犀

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 物憂げな空

 私は昔から心配性だった。
 石橋を叩いて叩いて、叩き壊してしまうほどに。何度も何度も繰り返し繰り返し確認して確認して、やっと半歩進むような性格だった。
 今日の面接もしっかり準備して臨んだ。
 志望動機、質問と返答、自分の長所、短所、就活用のメイク、表情、目線にすら気を遣って。なのに、失敗した。

——最近嬉しかった事などを教えてください。

 アドリブへの対応力がなかった。というか、そもそも最近嬉しかった事がなかった。学生のままでいたかったし、働きたくなんてなかった。将来の夢なんて、小学生の頃でさえ思い浮かばなかったくらいだ。卒業文集には「六年間の思い出」という題で下手な文を書いた。
 ため息を空に吐いた。すると、最近は空を見上げることもなかったな、とふと思い出した。空は分厚い雲に覆われていて、今にも雨が降り出しそうだった。
 空を見上げるのは幸せな証拠だと思っていた。晴れやかな気持ちで笑顔を送るものだと。でもそれは私の、勘違いだった。
 私が生まれるよりずっとずっと昔からこの空はあるのに、それでさえ曇ることがあるんだ。だから大丈夫。暗く重たい空に励まされているような気がして、なんだか笑ってしまった。
「帰ろう」
 そう空に告げて、躓かないように足元を見て歩いた。

2/25/2024, 2:32:30 PM