杏野 天音

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昼間の賑やかで熱気に満ちていた海
今は暗く、空と水平線の境界も曖昧になってきた

昔から静かな海で泳ぐことが心地よかった
なにも邪魔するものがなく
私と水と空の境界が曖昧で
すっと溶けていきそうな感覚
このまま自分の輪郭も消えていく
それもいいかなと思っていた

「・・・」

なにかが私の意識を呼び覚ました
曖昧になった境界が急激に形を作り
現実に意識が引き戻された

「・・・誰?」
懐かしい匂い
私の声に応える者は無く、私は独りだった
私はこの世界に形を持ち続けないといけないと言われた気がした
不意に襲ってきた重さを感じながら、来た道を帰っていく


「お題-夜の海」

8/16/2024, 7:26:58 AM