食べて

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月明かりがレースカーテンをすり抜けた先で、人差し指の先と人差し指の先が重なる。琴線が張るような緊張がその面いっぱいに広がり、簡単に離れるはずなのにもう一生離すことができないような気がする。実はもう繋がってしまっているのかもしれない。この指先が離れたらこの世界が終わってしまうかもしれない。僕がこの小さな居場所について真剣に考えていると、彼女の指が意志をもって動き出して指先が離れた。僕の夢が一瞬はらはらと夜の暗闇に溶けて、その隙に君は僕の手を握り締めた。心臓がぎゅっと痛くなり、僕も強く握り返す。閉め切った窓からは、車の走行音が途切れ途切れに聞こえるし、時折り男や女の声も聞こえた。でも僕はこの世界に、僕と彼女しかいないような、他のものなんて何もないような気がしていた。違う、多分これは願いだ。僕の欲張りな願い。僕と君以外のものが全てなくなって欲しいんだ。君以外なんにもいらないって、ほんとうの意味で言えたらどんなにしあわせなんだろう。いや、いまだってしあわせなんだ。僕はしあわせで、しあわせで、たまらなくしあわせで、この時間が終わることが怖いんだ。ずっとしあわせでいたい。だから、はやく死ななくちゃって、君といるときは薄ら、ずっと思ってしまうんだ。

【時間よとまれ】

9/19/2024, 1:14:26 PM