クレハ

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カチ、コチ。

時計の音だけが響く部屋。
オレはうつむいて、ぎゅっと拳を膝の上で握り締める。
どうしてこうなったんだろう。
いや。
間違いなくオレが悪いのはそうなんだけれど。
じゃあどうすればよかった?

何度考えても、たぶんオレは同じ行動をとる。
いつもどおり帰ってきて、料理作ってる背中に飛びついて後ろから手元を覗き込む。
危ないからって注意するあなたの言葉を受け流してぎゅうと抱き着いて。
そして。

「オレはとても怒っている」
「……ハイ」
「とてつもなく怒っている」
「……ハイ」
「弁明はあるか」
「ごちそうさまでした」
「〜~~〜〜!!」

あ、やば。間違えた。
弁明?弁明というなら、そりゃ。
一週間ぶりのあなたの匂いと体温に我慢できなくなってちょっと無体を働いてしまいましたけど。
それに関して後悔はしてないよ。
確かに煮詰めていた今日の夕飯が水分蒸発してしまってカラッカラになったけど。
これはこれでおいしいし。

顔を真っ赤にしたあなたはプルプル震えながら口を引き結んでいる。
また時計の音が部屋中に響く静寂が現れた。
けどさっきまでの緊張感はなくて、かわいいなあってオレは仁王立ちしているあなたを見上げている。

「ちゃんと」
「ぅえ?」
「ちゃんと美味い飯食わせてやりたかったのに」
「っ」

ああどうしよう。
大好きだ。
尖らせてる唇をがぶっと行きたくなる気持ちを抑え込んで、膝立ちになって手を取る。

「言い忘れてた」
「…………なに」
「ただいま。ご飯は明日にしましょっ」
「……………………バカヤロウ」

とたん騒がしくなる部屋に、帰ってきたって感じがしてオレはまたぎゅうと抱きついた。

お題「静寂に包まれた部屋」

9/30/2023, 8:19:00 AM