月園キサ

Open App

#元ヤンカフェ店員と元ギャル男モデル (BL)

Side:Yuga Hikami



「ゆ、う、が、く〜ん♪」

「…」

「勇河クン♡」

「…実琴サン声でけぇっす」

「ねーーえーー、ゆーーうーーがーーーー」

「だから声がデケェっつってんだろ!アンタのファンにバレてもいいのかよ!」

「でもさ、勇河がこっそりヴァイオリン弾いてるとこが見たくて閉店ギリギリの時間をわざわざ狙ってくるのって、俺さんくらいしかいないじゃん?」

「チッ…そういう魂胆すか」


人気モデルの実琴サンはオフの日や仕事帰りに必ず俺が働いている音楽カフェにお忍びでやってきては、ほぼ毎回必ず俺の演奏を聴きたがる。

俺がまだバリバリのヤンキーだった9年前に知り合ったからか、実琴サンの前では未だに当時の口の悪さが抜けきらないでいる。

…ったく、最悪な男に好かれちまったもんだ。


「ねぇ、勇河」

「…んだよ今度は」

「俺がモデルの仕事頑張れてるのは、勇河が演奏を聴かせてくれるおかげなんだよ?」

「ば…っ!アンタ真面目な顔していきなり何言ってんすか、いつもウザ絡みしてくるくせにキモいんすけど」

「ちょっと勇河〜!?お兄さんにだって真面目モードは搭載されてますけど〜!?」

「…その真面目モード、今秒でオフになったっすね」

「はっっ!!…とにかく!俺さんは勇河に感謝してんの!OK!?」

「…ふっ…バカみてぇ」


実琴サンがいつもリクエストしてくるエルガーの愛の挨拶を弾きながら、俺はフッと笑った。

真面目にペラペラ喋られるよりかは、いつものテンションのほうが俺の調子が狂わない。


「あっ!勇河が笑ったの久しぶりに見た!」

「笑ってないっす」

「笑ったって!いつも仏頂面な勇河にしてはイケメンな笑い方だった!」

「おいコラぶっ飛ばすぞ」

「勇河が弾く愛の挨拶が世界一好き!」

「サラッと話変えようとすんな!」


…前言撤回。この男どっちにしろ調子狂う。
世界一好きだと褒められて満更でもないと思っちまった。最悪だ。


俺は実琴サンにわざと背を向けて、リクエストにはなかったパガニーニのカプリース第24番を弾き始めた。

世界一ウザいけど世界一俺のヴァイオリンの腕前を分かっているこの男に、いいから黙って聞いとけとばかりに。




【お題:最悪】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・大瀧 実琴 (おおたき みこと) 攻め 32歳 人気モデル(元ギャル男)
・樋上 勇河 (ひかみ ゆうが) 受け 22歳 カフェ店員(元ヤン)

6/6/2024, 11:48:18 AM