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「実は宇宙人なんだよね」「本当は100年生きてる」「超能力で空を飛べるんだよ」「100メートル走ボルトより速いから」「故郷に兄弟が50人いるんだ」

よくもまあ、毎年毎年しょうもない嘘を思いつくものだと思っていた。君の両親は普通の日本人だし、僕らはずっと同じクラスだし、箒で飛ぼうとして失敗してたし、足の速さは僕と変わらないし、君は一人っ子だし。あと、故郷も何も、地元の病院で産まれたんじゃないか。新生児室の頃から隣にいたのにさ。幼馴染を騙すなら、もうちょっと凝った嘘をつけばいいのに。
ハイハイ、エイプリルフールね、何て適当に流せば、嘘じゃないよ、ちゃんと聞いて!と返ってくる。それが4月1日の僕らの恒例だった。

こんなにも嘘ばかりの世界で、改めて嘘をつくだなんて、くだらない。そう思いつつ、いいことを思いついたって楽しそうな顔で、君が嘘をつくこの日が、いつからか楽しみになっていた。

今年も4月1日。今回はどんな嘘だろうって、期待していたんだけれど。

「今日、故郷に帰らなくちゃいけない」

なんて、君が浮かない顔で言う。いやいやだから、君の故郷はここだろう。もしかして宇宙人の設定まだ諦めてなかったのかな。とても信じられない。信じられない、はずなのに。信じてしまいそうなのは、いつになく君の目が真剣なことと、君の後ろの上空に、SF映画で見るような、大きな宇宙船が浮かんでいるから。

「ずっと好きだったよ」

最後に伝えておこうと思って、と、少し恥ずかしそうに君が言う。ちょっと待ってよ。今日はエイプリルフールだろ、全部嘘だって言ってくれ。いや好きだってのが嘘なのは嫌だ。

「じゃあね、今までありがとう」

思考が追いつかずに、何も言えないでいる僕を置いて、君は背を向けて歩き出す。ねえ、今までのって、嘘じゃなかったの?君は本当に宇宙人で、本当は100年生きていて、空が飛べて、ボルトより速く走れて、51人兄弟なの?僕が信じていた生活が嘘で、君が言っていたことだけが本当だったていうの?聞きたいことがいっぱいあるけど、そんなことより何より、僕には伝えなくちゃいけないことがあった。

「ちょっと待って!」

ああやっぱり、エイプリルフールなんてくだらない。一世一代の告白まで嘘だと思われてしまったら、一体どうしてくれるんだ。まぁでもそれは、今まで君の"嘘"を信じられなかった僕の自業自得かもしれない。なんてもう、そんなこと考えてる時間もないか。宇宙船に乗り込む間際、振り返った君に叫ぶ。嘘じゃないんだ聞いてくれ。君がずっと本当のことを言っていたみたいにさ。

「僕もずっと、好きだった!」


2024.04.01/「エイプリルフール」

4/1/2024, 12:19:11 PM