本棚に革張りの日記帳が五冊収められている。
背表紙はすっかり色褪せて、端はぽろぽろ欠け落ち、箔押しで刻まれた西暦はもう文字の跡だけで近づかないと判読は困難だ。
本棚から取り出そうものなら、その形を保てず壊れてしまいそうで、わが家では誰も手をつけようとしない。
閉ざされたまま、もう何十年もそのままだ。
戦前生まれの曽祖父の日記である。
曽祖父のことは仏間に飾られた遺影でしか知らない。
家族は誰も曽祖父のことを話してはくれない。
話したがらない、が肌感覚に近い。
気難しい人だったのだろうか。
今となっては、遺品整理の際に見逃されたあの五冊の日記帳だけが、曽祖父のことを知る最後の手がかりになってしまっていた。
ただあの日記帳を見ることは、きっとないだろう。
取り出すと壊れそうというのは前述通り。
ただそれ以上に、日記帳を見るということは個人の心の内を覗き込むような背徳感がある。
その背徳感に抗ってまで曽祖父のことを知りたいとは思えないのだ。
あの遺影の鋭い視線に抗う勇気は今なお湧きそうにない。
お題『閉ざされた日記』
1/18/2026, 12:37:28 PM