ぺんぎん

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僕はにいちゃんが大すき。だから、すぐに後は追わなかったよ、この酒を煽るときまでずっとずっと我慢してきたの。
「にいちゃん、やっとお酒を飲める歳になった」
手のひらくらいの大きさの骨壷に収まった、軽い骨に向き合って笑う。そして、その内の小さなひとつをつまみ、手のひらにのせる。うっとりと、そのなめらかで優しい色に目を奪われる。
それを思い切りわるく指の腹で潰す。ほろほろといちどに崩れるものだから、手のひらが粉まみれになる。ざりっと生命線の溝に砂利サイズの粒が埋まるような心地がする。それがどんどん皮膚に沈んでいく。
酒。
目先にある、瓶に詰められたウイスキーの液は琥珀を閉じ込めたようなあたたかい色味をしている。
それにさらさらになった骨を注ぐ。冷える。掻き混ぜる間もなく、ぐいと勢いわるくそれに口を付ける。少しこぼれる。がんと殴りつけるような痛みが肌に刺さる。身体の芯をガスバーナーで熱されるような、直接的で攻撃的な酔いに支配され、溶けるように背から畳に崩れる。少し粉っぽい味のそれが舌に張り付く。ウイスキーの黒いラベルみたいに綺麗に、鬱陶しく。覚束ない頭を無理に起こし、唇を寄せ、喉仏を隆起させ、せかせかと酒を煽る。こんな痛みが、苦しみがすべて嬉しい。浴びるように痛みを乞う。それを幸せだと思う。
あの日ふたりで頬張ったガトーショコラによく似た、浅い胸焼けがする。



微熱に襲われて、喉をざらっとしたものが滑ってはじめて、胃に溜まってはじめて、にいちゃんとひとつになれた気がした。
一滴残さずに飲み干した瓶を腕のなかで滑らせて、それをけらけらと笑い、とろとろとした眠りに誘われて、畳で熱くなる身体をきゅうと縮めて眠った。冬だったけれど、雪が散っていたけれど、久しぶりにあたたかくて幸せだった。腹の皮膚の内側に潜む臓器がさっきよりずっと大きく、ずくんと存在を示すように鳴いた。

1/11/2023, 7:17:57 AM