🐥ぴよ丸🐥は、言葉でモザイク遊びをするのが好き。

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043【空が泣く】2022.09.16

「空が泣く……って、そりゃあ、雨が降るってことだろ?」
いったいそのなにが不思議なことなのか、意味有りげな口調で切り出したアイツを、オレはそうさえぎった。
「そうですよ。たしかに雨ではありますね」
「雨ではありますね……って、なんだよ、そのふくみのある言い方は」
アイツは落ち着きはらってモンブランにフォークを刺した。一口食べた。美味で美味でたまらない、とでもいうふうに目をとじながら。オレもしかたなく、アイツが手土産で持参したモンブランを食った。たしかに、美味かった。きっとこれが高級洋菓子店の味ってヤツだ。しかし、オレは話の続きが気になり、パティシエの妙技の極みを味わうどころではない。
結局、アイツは一口一口、味わいを堪能するが如く、ゆっくり無言でモンブランを食べ続けた。つまり、オレは、アイツが全部平らげるまで待たされたってわけだ。
「教えたら一緒に来てくれますか」
コーヒーをすすりながらアイツはオレの目を真っ直ぐ見た。
「かなり過酷な探検にはなると思います。だからこそ、この話は、キミにもちかけようとおもいました」
オレはポーカーフェイスを保つのも忘れ、うっかり片側の口角を持ち上げて反応してしまった。アイツが言うのなら、その過酷は掛け値なしの過酷だ。
「オレ以外の誰も行けないところなら、何処へだって、オレは行く」
オレは急に生きている実感が湧いてきた。
「教えろ。どこでどんな雨が降るんだ」
アイツは地図と古文書のコピーを取り出し、とある箇所を指さした。
「ここに……空が泣くと黒い雨が降る、と書いてあります。実際に涙のように塩味もする、とされています。この現象は現実に起きているのか、起きているとしたら黒い塩味の雨の成分は何なのか、調査をしたいのです」
古文書の文字は見たこともないような絵文字だった。いったいどうやって解読できたのか、アイツのIQの高さについては、オレも脱帽するしかない。しかし……
「過酷と言う割には、調査したいことが、妙に……ショボくないか?」
すると、アイツがニヤリとした。
「それは表向きの口実です。ホントに潜入したいのは……」
知性をたたえた、と褒めるしかない端正な唇をオレの耳元に寄せてアイツが囁いた単語に、オレは目を見張った。
「正気かよ!?」
「正気ですよ。私はいつでも正気だったでしょう」
ソファにゆったりと腰掛けなおして、アイツは再び言った。
「一緒に来てくれますか……もちろん、来てくれるのでしょう?」
こういうときのアイツは、むかっ腹がたつほどイケメンだと思う。
「行くよ。とうぜん行くさ」
たぶん、いまのオレの表情は、ギラギラとニヤニヤでたぎり立っているはずだ。
「で、報酬は?」
アイツは小切手を取り出し、サラサラと数字を書き付けた。それはとんでもない桁数の法外な数字だった。

9/16/2022, 1:22:07 PM