sumi

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「飛ぶ」

「行く時期が来たようね」
お母様が私達に囁きます。
お母様のおっしゃる通り、私達の足元は力無くゆらゆらと揺れており、時期を悟っておりました。
あともう少しでお母様から離れてしまいそうな気持ちが、前々からしていたのです。
「さあ私の可愛い娘達、次の機会が訪れたら、それに合わせて行ってらっしゃいね。」
お母様は美しく根強いお方です。
私達のために、この広い世界を飛び回ってくださいました。そうして辿り着いたのが、この素晴らしい大地。日当たりも良く、柔らかな大地に、豊富な水も揃う、素晴らしい我が家です。
私もそうでありたいと願います。お母様の様に、強く強く生きていくのです。
___と、その時。
大きな影が私達を覆いました。そして、ゆっくりと動く固まりが私達の支柱を掴み、プツンとお母様から切り離したのです。
これは____お母様のおっしゃっていた人間。
人間は静かに空気を飲み込むと、口から春風を吹きだしました。
私はいつの間にか宙に浮いて、お姉様達も違う方向へ離れて行きます。
いってらっしゃい____お母様のお声が聞こえました。

二つ縛りの少女は、たんぽぽの茎を片手に、空を優雅に飛んでいく綿毛の姿にはしゃぎまわった。
暖かな春の風が吹いていた。




お題: 春風とともに

3/30/2025, 11:04:15 PM