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俺がダンジョンに潜るようになったのは退屈だったからだ。
貴族の三男坊として生まれ、跡目争いを避けるように成人してからすぐに家を飛び出した。

平和な世の中。
戦で名を挙げることもままならない。

刺激のある生活を求めていた俺が冒険者になることは、ごく自然なことだった。

武芸や魔術、言語などを一通り叩き込まれたおかげで冒険者暮らしに慣れるまでそこまで苦労はしなかった。
苦労したといえば、不潔な生活にはなかなか慣れなかったな。


俺は今日も地下墓場遺跡へと足を伸ばした。
そこまで難しいダンジョンではないが、パーティー前提の難易度設定だ。
ソロで潜ることは想定されていないため、1人で潜る俺にとって刺激もあり、何より実入りがいい。

地下5階まで降りたところで、奥から喧騒が聞こえてきた。
他の冒険者たちが何かから逃げているようだ。

悲鳴と共に聞こえる蹄の音。


「デュラハンかっ!」

霊馬に跨り墓場を駆ける首無し騎士。
遭遇例は非常に稀。
その剣撃は鋭い。
逃げる者は追わない性質のはずだが…


まあいい。
俺がここに来た目的に会えたんだ。

血が激る。
得物を持つ手が力み過ぎているようだ。
自嘲気味に小さく笑みを浮かべて俺は走る。

スリルを求めて。

11/12/2022, 12:58:00 PM