074【忘れたくても忘れられない】2022.10.17
私が一番最初にアシスタントとして付いていた先生は、体を壊して、結局、商業マンガの世界には帰ってこなかった。ただの一般人に戻りたいから、と連絡先を交換することも断られた。
それから五年。いまや私が、先生、と呼ばれる立場になって、日夜、締め切りに追われている。過去を回想する暇など、ついぞない。だけど、それでもなのだ。なにげなく引いたライン、ちょっとしたアシスタントへの声掛け、ふと思いつく決めゼリフ、そんなこんなのはしばしに、あの先生の影響が色濃く落ちているのに気がつくときがある。
まっさらのときに刻み付けられた経験は、忘れたくても忘れられない。先生は、いまどこで、何をしているのだろう。私のマンガは見てくれているのだろうか。あらん限りの恩返しの意を込めながら、今日もペンを走らせている。
10/17/2022, 11:16:55 AM