彼女は嫌われている。
人とは違う考えを口にするから。
「人は死んだら海へ還るのよ」
残念ながらそれは、僕たちの知識とは相容れなかったから。
―人は死ぬと土に還る
それが正しく僕たちの常識で、
それが正しく僕たちの現実で、
それが正しく僕たちの希望だ。
土に還り、地に還り、世界の命を生むための糧となる。
そして、世界のために全てを使い果たした生物は、新たな命として生み落とされる。
循環する世界の一部として、僕たちは存在している。
「生命は海から始まったのよ?海へ還らなくてどうするの」
キレイな海色の瞳を瞬かせて、彼女は笑う。
地球の歴史を思えば、彼女は正しい。
けれど、人は受け入れられなかった。
海は恐ろしくて、広くて、帰り方も忘れてしまいそうだ。
けれど彼女は笑うから。
真っ直ぐ見つめて願うから。
「こんなところに、あの子を埋めないで」
立派な墓石の下から、彼女を救い出す。
君の話を信じてあげられない。
君の知識を認めてあげられない。
けれど、だけど。
君は土へ還らなくていい。
「行こう、海へ」
僕は行けないけどね。
君を海へ連れて行くよ。
だってそれが、君のたった一つの希望なのだから。
お題「海へ」
8/24/2023, 9:52:39 AM