食堂に行くと、何故か後輩が沈んでいた。
あまりの沈み具合に、いつもは毛嫌いしている苦手な野菜を口に入れている。
あ、呑み込んだ。
「大丈夫か、おまえ」
「…………っ」
話しかければ、こっちを見ないままぼろりと涙を流した。
突然のことにいつも元気のいい後輩の現状を心配していた周りの人間もとたんに騒ぎ始める。
いったい何があったと言うんだ。
「どうしたんだよ……」
「うぇ…………」
「とりあえず擦るな、腫れるぞ」
「うー」
ゴシゴシと目を擦るから、慌てて止めさせる。
面が良いこいつが明らかに泣き跡を残していたら学年どころか学校中が大騒ぎだ。
「で?」
落ち着いたタイミングで泣いた理由を問いかける。
けれど、後輩の返事に早々にこの場を離れたくなるとは思わなかった。
「オレの…好きな人が……」
「おう」
「昨日ご飯作ってくれて」
「あぁ、うん」
後輩の好きな人。
話しやすいのか牽制か、この後輩はよくオレのところに話をしにやってくる。
まだ想いを告げていない片想い状態なのに。
しかもその状態で、世話好きな奴の部屋に入り浸っているのだ。
だから、こいつが誰を好きなのかは知っている。
ご飯を作ってくれて、という言葉に、簡単にその時の状況を想像することができた。
「その時の鼻歌が……」
「あぁ、あいつよく鼻歌歌ってるしな」
「失恋の歌だったんです〜」
帰っていいかな。
びゃああと泣き出した阿呆から、心配していた周りの人間が目を逸らす。
とりあえず話を続けよう。
意味が分からないから。
「…………なんでそれでおまえが泣くの」
「ひぐっ、失恋の歌ってことは失恋したってことでしょ?オレ以外にぃぃ」
残念ながらあの器用貧乏型多才バカはその時の気分関係無しに流行りの曲を歌ってるぞ。
リズムが好きだからとかいう理由でキャットファイトする洋楽歌ってたバカだからな。
カラオケのストック増やすために聴いた新曲が頭から離れなくなったとかだろ、それ。
とうとう食堂のテーブルに突っ伏してベソベソし始めた後輩を見下ろす。
人の気持ちを考えない傍若無人の言動を天然でする後輩の涙の理由は、心底くだらないものだった。
お題「涙の理由」
10/11/2023, 7:35:25 AM