まる

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さらさらと手触りのいい髪を掬いあげる。
暑いからと少し開けた窓からは、夏独特の熱を帯びた風が吹き込んだ。
掬い上げた髪は吹き込んだ風によって逃げていく。
その瞬間、焦燥感が込み上げて逃げていった髪を包み込むように手を添えた。
ふと、寝ている彼女の首筋に汗が滴る。
いつか彼女にした小説の話を思い出しながら、首筋に口付けを落とした。

彼女との関係は、物心ついたときから続いている。
病弱な彼女は療養のため、人間よりも動物の方が多くいる自然しか取り柄のない田舎町へやってきた。田舎町では一生見ることは出来ないような品のある上質なワンピースを着て、隣家の私たち家族へ挨拶にやってきたときは、何処ぞのお嬢様がやってきたかと驚いたものだった。
同い年で家は隣同士、仲良くなるのは一瞬だった。ただ田舎町のコミュニティで、都会生まれの彼女は田舎町の垢抜けない子どもたちの中では群を抜いて浮いていた。顔立ちも良く品もある。病弱さによってどこか庇護欲を掻き立てられる彼女は同性からは妬み、異性から好意からくるちょっかいをかけられるのはもはや必然となっていた。その度、女子には間を取りもち交友を。男子には制裁を。ちょっとした騎士気分を味わいながら、彼女のそばに居る事が当たり前となり、気づけば高校生になっていた。

しかし、口実だった彼女の病弱さも高校生になると安定し、日常生活を送ることに関しては殆ど問題はなくなっていた。
更には、顔立ちと品の良さには磨きが掛かり、彼女にちょっかいをかけていた男子の目も変わっていた。
それは、彼女を自分のものにしたいという欲。学校内で彼女と並んでいると、嫌でも聞こえてくる声。可愛い""綺麗だ"などと外面ばかりしか見てない男、下品な男は"ヤリたい"といった身体目当ての欲望の押し付け。
彼女にいつか好きな人が出来るまでは、自分が守らないと勝手に自分に誓いを立てていた。

いつか好きな人が出来たら、その男から彼女を守るこの立場を奪われるのだろうか。
そんないつかに底知れない嫉妬心を感じながら、目の前で読書に耽る彼女を見つめながら考える。
いつか彼女が教えてくれた小説の求愛好意を思い出す。
ふと、風に靡く彼女の髪が目に入り、手に取る。
-髪へのキスは、愛おしいって意味だっけ-
彼女は「どうしたの?」と目を合わせてきた瞬間、我に帰って理性を取り戻した。
なんでもないと言いながら、不貞寝を決め込む。
「えーもうどうしたのー」と笑いながら、撫でてくる彼女の手のひらに心地よさを感じながら、眠りについた。

-友達-

7/7/2023, 3:59:36 AM