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「何たる失策であることか」

唐突にそんな言葉が頭をよぎる。確かに失策だ、自分は失敗したと言って間違いはない。

先刻ほどまで二人だった教室に独りで残る。

もう一人は先刻自分の右頬を嫌というほどしたたかに打ち、飛び出して、いってしまった。

解せぬ。

ただ自分は「一緒にはいけない」と言っただけなのに。

放課後の夕暮れ時、うだる暑さに未だ冬服の自分。

何故自分は冬服を着てしまったのだろうとあの朝の着替え時の自分を殴りつけたい。

しかし夏服は無い。

教室の白板に反射する夕日は赤い、と言うより黄に近い。まだ日は落ちぬ。

帰る準備もままならぬまま夏服の、

――名前は、何だっただろうか――

女生徒に別れを告げたので、自分の机の上にはまだ最後の授業の教科書が鞄に収納されることを今か今かと待っていた。

切ることを忘れ、長くなった前髪が目にかかり、汗が伝う。今の気温は三十℃だと気温計が要らぬ気遣いで教える。

あぁ、何たる失態。

この教室のエアコンは稼働することを忘れた。

親愛なる運動部の同胞は、教科書や下敷きを使い暑い暑いと扇いでいた。

壇上に上がり、白板の前に立つ。教卓を使う人はもう出て、いってしまった。

窓から差し込む西日が床に机の影を作り、それが四十人分連なっている。

これだけ居れば、名前を覚えることができないのも納得だった。

なんとはなしに、下を見て机の影の横を見る。それぞれの荷物が置いていかれている。

荷物の持ち主を当ててみる。分かりきったことを、と自嘲する。

この荷物の影は運動部だ。水筒の形がスポーツタイプ。

あの荷物の影は写真部だった、カメラの形だ。

皆、忘れ物が多い。季節的に中間テストはもうすぐだと言うのに。

教室の後ろのロッカーには、教科書、体操着、体育靴が入っている。

綺麗に整頓されているもの、無造作に放り込まれているものなど、人によって置き方が様々であるのが面白い。

さて、自分一人になってしまった。

四十人も居た生徒たちも、三十九人がかえってしまった。

窓の下は相変わらず赤い。

下では先にかえってしまった三十九人が自分を待っているのだろう。











夕日がずるりと西の果てに消える。

窓から見える景色は何も無い。

今日で、シェルター名「教室」での生活は一年が経つ。

まだ其方側には「い」けない。











貴方はこの生活から出て「逝」きますか?



 はい


 いいえ





















どちらが幸せですか?

※因みにこのシェルターを作ったのは本人です
『何たる失策であることか』

3/31/2023, 1:06:26 PM