金木犀

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 現実逃避

 誰にだって目を背けたくなるようなものはあるだろう。
 私の場合、たまたまそれが「現実」だっただけで、不思議なことでも特別なことでもない。
 梅雨明け。すごく暑い日が続いた。ニュースでは連日の猛暑だとか、最高気温更新だとか言っていた。そんな日が続いたとして、私たちは学校に通わなければいけないわけで、その日も扇風機の音がうるさい教室でじっと座っていた。
 読書感想文を書こう、という話だったはずだ。図書室にある本でいいからとにかく提出しろ、と。夏休みのお決まりの宿題。読書感想文。なんでもいいから、と言われたのを逆手に、私は絵本を選んだ。実に捻くれていた。

「この辺じゃ、だれでも狂ってるんだ。俺も狂ってるし、あんたも狂ってる。」
「あたしが狂ってるなんて、どうしてわかるの?」
「狂ってるさ。でなけりゃ、ここまでこられるわけがない」

 そう言ってチェシャ猫がにんまりと笑う。
 こんなことになるなら素直に向き合うべきだった。酷暑も面倒くさい宿題も、今よりずっとマシだ。私はため息を一つ吐いて、またウサギを追いかける。

2/27/2024, 1:17:27 PM