幼馴染のティアは不老の体を手に入れた。彼女は成人の儀式に失敗して、19歳のまま年を取ることができなくなったのだ。俺達の村では、19歳になってから1年経った者は成人の儀式を行う。村長の家のそばの教会で3日間祈りを捧げ、その祈りが神に届けば成人を認められて20歳になれるのだ。このとき、神に存在を観測してもらうには微量の魔力が必要となる。必要といっても少しで良いから、儀式が失敗することは普通はないらしい。だがティアにはそれが足りなかった。
ティアは昔から、2歳年下の俺に対して姉のようにふるまった。俺もティアのことを信頼していた。けれど、恋愛ということにおいては彼女は高嶺の花だった。ティアは年上だし、美人で性格も良く村の皆から好かれていた。俺が彼女に釣り合うとは思えなかった。それに何より、ティアは成人したら村を出ていくはずだった。自分は将来王都に菓子店を開くのだと、いつも言っていた。しかし、王都では未成年が働くことはできない決まりだ。儀式に失敗したティアは夢を諦めることになり、目に見えて落ち込んでいた。以前は俺が彼女に気を持つべきではないと考えていたが、だんだん俺がずっとそばにいて元気づけたい、幸せにしてやりたいと思うようになった。長年の思いを成就させるなら今しかないという気持ちもあり、俺はティアと同い年になった19歳の誕生日に、思い切って彼女に結婚を申し込んだ。それから1年の間、俺達は村の新しい家に二人で住んだ。彼女と共に暮らすことができるのは嬉しかったが、俺の中ではときどきその幸福に影がさした。俺は結局、自分の思いを叶えるために彼女の傷心を利用しただけなのかもしれない。
俺の成人祝いに、ティアはケーキを焼いてくれた。それを見ていたたまれなくなった。別に彼女の夢が破れたのは俺のせいじゃない。でも、俺の中の罪悪感がそう錯覚させた。影は最近ますます濃くなってきている。俺はとうとうティアの年齢を追い越してしまった。この先俺は順当に年を取っていくが、ティアは何年経っても、俺が死んでも19歳のままだ。そんなことがあっていいのか?
祝いに来てくれた家族や友人、村の者達が帰り二人きりになった家で、俺はティアの胸に、その次に自分の腹に、ナイフを突き刺した。すごく痛かったが、それよりもティアにも同じ苦痛を与えていると思うと申し訳なかった。俺は彼女の人生を二度も狂わせてしまった。しかし視界が薄れていくと同時に、俺の胸の中は今まで経験したことのない安堵感で満たされた。
1/10/2024, 2:38:31 PM