とおる人魚は海の底で、陸に上がってしまった彼女の事を思い出していました。
よく笑う子でした。人間の捨てたゴミを誤って食べてしまった魚たちを助け、海藻のかくれんぼではいつも真っ先に見つけ出してくれました。
そんなあの子は何処ぞの人間に誑かされて、遠くに行ってしまった。
何も言わないまま。
どうして。
彼女の輝く鱗が懐かしく思える程、遠くだった。
とある人魚は自嘲気味に笑いながら海の魔女の下へ向かう。どうやら魔女は、代償を払う代わりにこの美しい尾鰭を醜い人間の足に変えてくれるらしい。
何でも良かった。たとえ声が出せなくても泡になっても後悔はない。彼女を見つけ出せるなら、それだけで十分有り難かった。
ねぇ、何処に居るのかな。
はやく、そこは暗いよ。
みにくいものしかない、汚い世界。
わたしとかえろう。
あのころの、きれいなままの海の底に。
1/20/2023, 2:29:55 PM