柳絮

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雨に佇む


古龍は思い出していた。
雨に濡れて歓喜に踊る村人を。それを微笑み見守る友を。
友は古龍に礼を言った。分厚い鱗を小さく柔い手で撫でた。それは古龍にはほんの些細な刺激に過ぎなかったが、何故だか全身が温かくなったのだった。
遠い日を懐かしむ古龍の下に、旅人たちがやってきた。彼等は古龍に礼を言った。その顔は、かつての友と重なって見えた。
彼等の誘いを古龍は固辞した。
そして、小さく柔い雨の雫を静かに受け止め続けた。




私の日記帳


日記をつけ始めたのは、かわいいペンをもらったからだった。大人になるとペンを使う機会もなくて、字も下手になるし漢字も忘れるし、だから練習がてら、と。
書いてみると凝り出して、かわいいノートを買ったり、マステやフレークシールで飾ったり、絵なんか描いてみたりして。誰に見られるわけでもないから、好きに書いてた。
そのうち、日々の記録が愚痴とか夢とかに侵食されて、空想が始まって。
私じゃない誰かの物語になった。




向かい合わせ


一時期はガラガラだった通勤電車も、もうすっかり元通りの混雑具合。友人はあれ以来テレワークに完全移行したと言っていたけど、こっちは当時も通勤を余儀なくされてた身。当然現在も満員電車に乗らなくてはならないわけで。
(気まずい)
押し合いへし合いの結果、男性と真正面から向かい合うことになってしまった。オジサンじゃなくて年下っぽいのは、良かったのか悪かったのか。
(しかも何か良い匂い……痴漢じゃないですごめん)




やるせない気持ち


どうしてこうなったんだろう。
力なく床に座り込む。
いつになく浮かれていたんだろうか?
震える両手を見下ろす。
特別何かがあったわけではない。ただ、ほんの少し気が向いた。それだけだった。
それがこんな惨状を生むなんて。
一体なんて言い訳したら。いや、潔く謝るしかない。それでどうなる? もう手遅れじゃないのか?
コイツ--無惨にも床にぶちまけられたプリンは。
俺はただ、たまにはプッチンして食べようと思っただけなのに。

8/27/2023, 12:16:10 PM