メイリュー

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【 あなたは誰 】


 ─── 最初にその言葉は聞きたくなかった。

 孤児院にいた時、俺たちが最長年だった。だからか必然と良くいる様になった。
 学校の登下校、下の子どもたちの世話も、二人で。
 だがある日、先に帰ると言ったまま帰って来なくなったよな。
 その時の記憶は消したいと思っていても脳裏にこびり付いて、消えることはしなかった。
 院長とも探し、警察にも協力してもらったが、結局見つかることはなかった。
 警察も院長も何度もオレに諦めろと言っていたのを思い出す。諦められる訳ねぇだろ。アイツはオレの唯一だ。諦めろの一言でオレが諦めると思ってる何もわかってねぇコイツらにイラ立つ。

 オレは学校をサボる様になった。学校行く暇があるならアイツを探す時間に当てる方がいい。
 だが何時間、何日、何週間、雨の日も猛暑の日も探しても見つからず、行方がわからなくなって数年が経ち、いつの間にか成人になる。
 そんなオレは裏社会に足を踏み入れ、道理を外れたオレは手段を選ばなくなった。些細な情報でも良い。アイツに繋がる情報ならばどんなに手を汚そうが構わない。
 一人で見つける。そう思っていた。だが裏社会で生きて、いろんな人と出会った。天才ハッカーに出会った。武器屋の店主にも会った。同じ師匠で殺しの技術を学んだ奴とも出会った。

 出会いが多く、たまにアイツのことを忘れて生きていた時期もあったと思う。それでも頭を左右に振って、オレの生きる理由を思い出して、出会った人間を突き放した。コイツらといるとアイツを忘れてしまうから。忘れてはいけないオレの唯一が、唯一ではなくなる気がしたから。それなのにハッカーも、同士も、いつの間にかオレの横にいる。



 ─── ああ、切り捨てなくていいんだ。


 そう思えたのは、オレの生き甲斐を話した時、鬱陶しい二人は笑わずに真剣な顔で聞いてくれたから。
 ただそれだけが嬉しかったんだと思う。その時は何も感じなかったけど、少なからず今までの重荷が降りた、そんな気がして思わずにはいられなかった。

 生き甲斐を話して数日、ハッカーは寝る間も惜しんで居場所を探し出し、同士はわざわざ武器を調達してくれた。
 二人に話してからトントン拍子に物事が進んだ。
 アイツが居たのはとある病院の地下、実験体として捕まっていた。たかが実験の為に数年もの間監禁されていたと思うと虫唾が走る。
 オレは二人の静止を振り切り一人で敵の敷地へと踏み入れる。今までの経験がここで発揮され、何十と現れる雑魚を拳銃一つで始末する。
 オレにとって何十、何百の人間を相手にするのは朝飯前だ、とどこかの人間が言う言葉を選んでみる。
 全身返り血まみれでアイツが眠る部屋へと着く。白い部屋に、機械の管が何個もアイツの体に刺さる姿を見て、怒りが湧いてくる。
 六年。アイツが行方不明になって六年が経過したが、オレの記憶にある姿のままだったことにホッとした。が、監禁した奴は許さない。オレが必ずこの手で殺すから、それまで生きて待ってろ。


 無事、幼馴染みを救出し武器屋の店主へと見せると薬で眠らされているだけとわかり胸を撫で下ろした。

 協力してくれた二人にもお礼を言っていると、眠っていた幼馴染みが目を覚ます。
 目を覚ました幼馴染みは目をこちらに向け、ゆっくり目を見開き、小さく口を開いた。


 ─── あなたは誰?


2025.02.20 #5

2/20/2025, 5:42:57 AM