絢辻 夕陽

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ここは何処だろう

私は気がついたら静かな闇の中を漂っていた。
何も音がしない。何も聞こえない。
そこにあるのはただただ静かな闇。

私はどうしてこうなったんだろう。

確か彼に会いにいつもの喫茶店に向かっていてそれで交差点を渡ろうとして。

思い出せない。その先がどうしても思い出せない。

どれ位の時間この闇の中を漂っていたのだろうか。
私は不安に押しつぶされそうになりながらも必死に何かを思い出そうとした。

そんな時、ふと思い出したのは彼と初めて会った時の事だった。

彼は初めてあったのにも関わらず親切に私に席を譲ってくれた。
あんな人は初めてだった。
私は彼に会うたびに少しずつ彼に惹かれていった事に今になって気がついた。

「彼に会いたい。」

私は口に出していないにも関わらずその言葉はこの空間に響き渡り思わず口を塞いでしまった。

彼に会いたい 独りぼっちはもう嫌だ

彼に対する想いが私の中から溢れ出てきた。

「彼にまた会いたい。もう一度だけでいいから、彼に会いたいの!」

視界は急に開け周りは急速に白に染まった。
目をそっと開いた。周りは白一面で視界を横に向けるとそこには窓から柔らかな光が注いでいた。

私、生きてた。
早く、早く彼に会いたい。

そんな事を考えていたらそばに居た看護師らしき人が医者を呼びに行った。

看護士から呼ばれて来たのは医者とその横にいたのは、彼だった。

私は彼を見た瞬間、目から涙が溢れ出た。
彼もずっと一人で耐えて待ち続けていてくれていたのか、涙を流し喜んでくれた。

数ヶ月後

「おはよう。もう、いっつも遅いんだから。」
「ごめんごめん。急いで来たつもりなんだけどなぁ。」

あれから私達は相変わらずいつもの喫茶店で談笑している。
彼も転勤先が思ってたよりも近くだったのか毎週会いに来てくれる。

「ここのモーニングコーヒーほんと美味しいね。」
「本当ここのコーヒーほど美味しい所はあまり無いかもね。」

こうしてまた一緒に珈琲を飲める。
また一緒に話せる。幸せだ。

毎週会えるのは休日だけとはいえ私にとって些細ながらもそれだけで十分幸せだ。

「あっ、私のお菓子食べないでよ」
「いいじゃないか、元気になったんだからさ。」

今日も一段と騒がしいが、モーニングコーヒーは普段よりもほろ苦く、香ばしく感じた。

「モーニングコーヒー」

6/27/2024, 12:08:34 PM