I'll write it later.
◦────────────────────◦
旅先で、家族と夜の浜辺を散歩していて、私と父だけ埠頭の方まで行った時、暗くて足元がよく見えず踏み外して真っ黒な海に落ちたことがある。確か5才だったと思う。
その時、無数の手が私の足をつかんで、沖の深い所へと引きずり込もうとした。私を助けようと海に飛び込んだ父の姿が見えた。
「助けて!」私の声も手も父からどんどん離れていく。
海面がどんどん遠ざかる。深く暗い。
苦しい…もう-
その時なぜだか懐かしい声がした。
「お前がこっちに来るのは早すぎだっぺよ。」
その声の主の姿はわからなかったが、右腕の大きな傷が目に入った。その人は私の足をつかんではなさない手をふり払うと、私の手をつかみ、海面へと連れて行ってくれたようだった。
明くる日、私は旅先とは全く違う漁港で発見された。私が生まれるもっと以前、漁に出て海難事故で亡くなった曾祖父が魚をおろしていた漁港だった。
半狂乱で私を探した父母は旅先からとってかえすと、すぐさま私の運ばれた病院に来てくれた。
私が「いっぱいの手がね」とか、「だっぺっていう人がね」と父母に説明してもよく伝わらなかったが、その話をきいた祖父が、セピア色の写真を私に見せながら、「だっぺって言った人、こんな傷があったか?」ときくのでよく見ると、確かに私がみた大きな傷がその写真の人物の腕にもあった。
「お前さんのひいじいちゃんだ。」
私が退院してから家族全員で曾祖父の墓参りに行った。私はきっと、会ったことのないひいじいちゃんに守られているんだ。墓の前でありがとうございます、と子供ながら心の底から思ったのだった。
お題「夜の海」
8/16/2024, 3:17:46 AM