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梅雨の晴れ間というには過酷すぎる日差しに、頭がクラクラしたので、視界に入った氷旗のさげられた店に飛び込んだ。かき氷も悪くない。
ところがそこはこじんまりとした喫茶店だった。
カウンター席につく前に「アイスコーヒーを1つ。」と注文し、腰掛けてから軽くネクタイを緩めた。
「暑かったでしょう。いらっしゃいませ。」
水とおしぼりを僕の前に置きながら、その人はニコリと笑った。そして、おしぼりとは別に未開封のフェイス用と書かれている汗ふきシートをおいた。「それ、使ってください。さっぱりとして気持ちいいですよ。自分で使うつもりで香りがローズなんですけど、お客様がお嫌でなければ。」

僕は既に汗で湿っていた自分のハンカチを出したものの、諦めてシートを使うことにした。
「同じもの買って返しますから。」
僕がそういうと「え?10枚全部使っちゃうつもり?ふふふ」と今度は可笑しそうに店員ではない素の笑顔を見せた。
「買って返すだなんて。必要な分だけお使いになった後、残りは返却していただけましたらそれで大丈夫です。」楽しそうに笑いながら彼女は言った。
「あ、あぁ、スミマセン。」
僕は1枚だけシートを取ると、アイスコーヒーをカウンターに置いた彼女の手に、残りの汗ふきシートを手渡した。

あぁ、何だか暑さとは別の汗をかいた。
かき氷は次回だ。次回?いや彼女に汗ふきシートのお礼をしなくちゃいけないし?
アイスコーヒーは冷たくて、芳ばしい香りがした。でもそれ以上に、額の汗を拭うシートの薔薇の香りに僕は惑わされていた。




お題「日差し」

7/2/2024, 10:38:41 PM