私の当たり前
朝起こしてくれるのは、猛烈にうるさい目覚まし時計。
「主、朝だ!起きろ!起きないと5秒で焼け焦げることになるぞ!ハッハッハ、嫌なら今すぐに起きろー!」
──訂正。
目覚まし時計ではなく、うるさい同居竜の子供の火竜である。
大型犬くらいの大きさだから、普段は庭にある犬小屋に収まっている癖に、毎朝太陽が登ると同時に起きて、異様にテンションが高い。
私の寝起きが悪いことを知ってから起こしに来るようになってしまった。私の不機嫌な様子がを見るのが楽しいらしい。本当に迷惑だ。
本当に燃やされそうな気がして致し方なく起き上がる。
頭が働かないまま着替えて、リビングに行けばおはよう、とあちこちから声が聞こえてくる。
「ほら新聞。早起き出来たなら早く読みなさいヨ」
偉そうに黒猫が机の上に現れて、咥えていた新聞を目の前に置いた。
「君は私に対する敬意が足らない。まだ無理。頭が働かない。読みながら寝る」
「本っ当に情けない主ネ。アナタの使い魔達はみんな起きてるわヨ」
「君らは睡眠を必要としないだろ?」
「アタシは寝るわヨ!」
「それは知らなかったな」
会話して段々と覚醒してきたので新聞を手にする。
情報は大事。人目を避けて暮らしているから特に。
仕事で人間と関わるとはいえ、私はどちからと言えば人間たちよりも闇に生きるモノたちに近いから、情勢が変われば私自身も討伐対象になりかねない。
私は魔女なのだ。本当の意味で、魔女。
過去に魔女狩りという意味不明なことを人類は行っているのだから、本当に信用ならない。
使い魔に用意されたコーヒーとトーストを食べる。
食べ終わったら、日課の畑仕事だ。
野菜に薬草。私の生活は基本的に自給自足だ。
午前中は畑仕事をして、使い魔が用意したお昼を食べ、午後は薬作りをする。
薬作りが終われば休憩なのだが、見計らったように大型犬──じゃなくて、火竜が「遊ぼう!」と騒ぎ立て始めた。
「遊んでもいいけど、人型でね」
「うん!何する?」
「かくれんぼ。見つけてあげるから、隠れてきな。人型でね」
「分かった!」
火竜が小さな男の子に変身して、隠れるために部屋を出ていく。入れ替わりで使い魔のタヌキが、お茶を持って入ってきた。
「悪い人ですね」
「ちゃんと見つけるわよ。寝る前くらいに」
「貴女が寝る時間にはあの子も寝てますよ」
「静かでいいでしょ。どうせ朝にはまたうるさいんだから。可哀想と思うなら代わりに探してきてよ」
「社会勉強にはちょうどいいですね」
互いにニコりと笑う。
これが私の、当たり前で、平和で、素敵な日常。
7/10/2024, 12:05:57 AM