#駆と棗 (BR)
Side:Kakeru Mizushina
『なーーつーーめーーくーーーーん、おーはーよーーーーーーーー』
棗くんにモーニングコールのLINEをしてみたけど、今日はまだ返事がない。
「…あれ?棗くんがお寝坊さんなんて珍しいな」
…もしかして、また…なんて嫌な想像が一瞬、俺の脳裏をよぎった。
何故なら棗くんは11年前に突然聴力を失ってから、絶望のあまり命を絶とうとしたことが何度もあるからだ。
「棗くん、まさか…!!」
俺は最悪の事態を避けるべく、慌てて棗くんが住んでいるアパートにすっ飛んでいった。
「あっ、ドアが開いてる…!ごめんお邪魔しま…あれ?」
ドアを開けてすぐに見えた光景に俺は驚いて目を見開いた。
棗くんはパジャマ姿のままでベランダに出て、ぼんやりと空を見上げていた。
俺は棗くんを驚かせないようにゆっくりと近づきながら、もう一度棗くんにLINEしてみることにした。
『棗くん!何してるの?』
「…!」
あ、今度は気づいたみたいだ。
ゆっくりと俺のいる方向へ振り向いた棗くんの目はまだ眠そうで、おそらく起きてまだ数分も経っていないのだろう。
『駆、どうしたの?汗かいてる』
『棗くんが珍しくモーニングコールに反応しなかったから何かあったんじゃないかって心配で来たんだよ…!!』
『ごめん…寝てた』
『怪我はない!?大丈夫!?』
『え?待って、何の話?』
棗くんは本当に寝ていただけだったようで、体に新しい傷は見当たらない。俺の杞憂でよかった…。
『駆こそ大丈夫?悪い夢見たの?』
『あの〜…あのね?俺さっき棗くんが死んじゃうかも〜みたいな嫌な想像しちゃって…それで、その…』
『…』
俺は手話で必死にここに来た経緯を説明した後、ついに耐えきれなくなって棗くんに抱きついた。
もし棗くんがいなくなってしまったら、俺の世界は一瞬で色のない、味気ないものになってしまう。
だから失いたくない。俺に黙って消えてほしくない。
今にも泣きそうな俺の背中を、棗くんはただ黙ってぽんぽん叩いてくれた。
それでさらに泣きそうになって、俺はしばらくの間棗くんの細い体をぎゅうぎゅうと抱きしめ続けた。
【お題:無色の世界】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・水科 駆 (みずしな かける) 19歳 棗の幼馴染
・一色 棗 (いっしき なつめ) 21歳 10歳の時に突然耳が聞こえなくなった
4/18/2024, 1:07:58 PM