倉本夏鬼

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シン、と静かな居間。
そこにある大きな時計は
とうの昔に進めなくなってしまったのだと、
父はそう笑って言っていた。
なぜ、未だに未練がましく
それを置いているのだろうと、
当時の私は不思議で不思議で仕方なかった。

そんなある日のことだった。
高校一年生の秋頃か。
そんな頃に母に一度尋ねたことがある。
「あの時計は捨てないのですか?」
母は困ったような、
仕方ない子を見るような目で
あの古時計を一瞥した後、
私にもそのような目を向け、
確かにこう言ったのです。
「仕方ないのよ。
あの人のことも、あなたのことも
アレは大好きなものだから。
捨てたとしても、また戻ってくるのよ」
駄々をこねる小さな子供のようだと、
そう言って朗らかに笑んで言ったのです。

父が子供の頃からある、
その大きな古い時計。
時を刻めないまま、
今日も私たちのことを
見守っている。

2/7/2026, 1:43:41 AM