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かつて共にいた人を思う日は、唐突に訪れる。動いていた心臓を知らずとも、生きていた言葉があったことを誰が覚えているのだろう。あの日、同じ時間に同じだけ思考を攫い、なにでもいいと心の内を曝け出す、臆病なんて知りもしなかった夜のこと。なにとはなしに探し、それをグラスの波紋を眺めるようにして見遣ることができたあの日のこと。救われたかと言われれば、きっとそうじゃない。救われずともよかったから。それを求める人間はそこにいなくて、感情の発露をただ愛せる人がいただけだった。そして、愛せた人からいなくなっていった世界だった。やわらかな光を思う。生きた言葉が、いつか死んだ大地に根を生やし、だれかの木漏れ日になるように。たぶんそうやって、あそこにいたひとたちは、いまも生きている。

10/17/2024, 4:08:24 AM