部屋の片隅で
古い旅館の使われていない部屋の片隅に埃を被った本が一冊。
誰かが置き忘れたのか、捨てられたのかわからない。
手に取ることも躊躇してしまうほどに汚れたその本だが、タイトルが微かに読めた。
もうこの世にはいないが誰もが知る作家の詩集
偶然だが私の本棚にも同じものがある。
その当時、精神的に参っていた私を救ってくれた一冊だ。
この本の持ち主も救われたのだろうか。
全てに見放され、見知らぬこの地で終わりを遂げようかと思っていたのに何故か自分の部屋に帰り、この本を読み返さなくてはと思った。
同じ本に二度も救われるなんて、思わず苦笑いしてしまった。
翌日、旅館を出る時にその部屋を覗くと、もうあの本はなかった。
end
12/7/2024, 3:13:46 PM