#ある殺し屋さんの苦悩 (BL)
Side:Toka Himekawa
最近功一さんが経営している隠れ家バー "Vanellie-Rose (ヴァネリー・ローズ)" 付近で怪しい動きがあったらしいので、俺は店を訪れる前に見回りをすることにした。
「…どうせ、暗殺組織の撲滅のために動いてる功一さんを邪魔に思ってる同業者の仕業なんだろうけど」
あの頃の俺ならその同業者と同じように、功一さんを排除しようとしていたかもしれない。
でも、今の俺は違う。
俺は視界の端で何やらコソコソし始めた連中を見て深いため息をついた。
「ねぇそこのオニーサン、こんなとこで何してんの?」
「あ゙?んだよ、やたらデケェ女だなあんた」
「あのさぁ、何してんのかって聞いてんだけど?」
「ゴチャゴチャうるせぇなぁ!ブッ殺されてぇのか!?」
まったく、話の通じないクソ野郎どもめ。
俺も同業者だっつーの。てか、今の俺はどっからどう見ても男に見える格好してるんですけど。
俺はわざと大きく舌打ちして、連中の顔をギロッと睨みつけた。
…どうかこの口もガラも悪くなってる俺を功一さんが見てませんように。とだけ祈りながら。
「…チッ、あっそ。そんなろくに手入れもしてないナイフで俺を殺せるって本気で思ってんのね」
「こ…殺せるに決まってんだろ!さてはお前もKayを始末しに来た同業者か!?」
「ケイ? …あぁ、やっぱりあんたらは俺の敵か」
Kayは対暗殺者専門の秘密組織 "J-RAVEN (ジェイ・レイヴン)" に所属している功一さんのコードネーム。
こいつらがKayを始末しに来たというのなら、あの店に入られる前に殺っておかなくちゃ。
俺は野郎どもが臨戦態勢に入る前に、履いていたブーツのヒールで思い切り奴らの鳩尾に回し蹴りを食らわせた。
「ぐあっ!!…な、なんだテメェ…!!」
「っ!?お、おいお前!こいつの顔よく見ろ…!!」
「ひっっ…!!お、お前まさか… "白薔薇の堕天使"って呼ばれてる姫川藤佳か!?」
「白薔薇の堕天使?はぁ??何それ、俺いつの間にそんなダッサい通り名つけられてたわけ?最っっ悪!」
俺はひとしきり悪態をついた後、ドス低い声で「…ブッ殺すよ」と呟いた。
あの店の平和を乱す奴は俺が全員この手で殺す。
これが同業者への裏切りになろうと俺の知ったことじゃない。
ねぇあの頃の俺、見てる?
今のあんたは、あんたがかつて本気で殺そうとした功一さんのために仲間を殺そうとしてるよ。超〜クレイジーでしょ?
「ひぃぃぃっ!ゆ、許してくれっ!!まさかあんたが姫川藤佳だとは思わなかったんだよ!!」
「頼む…!見逃してくれ!!」
「…今更気づいても遅ぇんだよ、サヨナラ」
─────パァン。
これで功一さんの敵が2人減った。そう、これでいい。
俺がこうすることに決めたのだから。
別に功一さんが好きだから始末したわけじゃない。
これはあくまで功一さんのお店の平和を守るため。
「…イル、後は頼んだ」
「了解したヨ、トウカ」
暗殺後の死体の処理を生業としている掃除屋のイルに後のことを託して、俺は何事もなかったかのように功一さんの店に入った。
「功一さぁ〜ん!藤佳さんが来たよ〜ん♡」
「…いらっしゃいませ」
…はぁ、相変わらずクールな功一さん好きぃ…じゃなくて!!別に惚れてるわけじゃないし!!
…でも、もしあの頃の俺が功一さんを殺していたら今の俺はいない。
別に功一さんを好きになったとかじゃないけど、今俺は功一さんのお店の平和を守るために、それを邪魔する奴らを片っ端からやっつけてる。
…拝啓あの頃の俺へ、あんたが功一さんを殺せなくて本当によかったって今なら言えるよ。
【お題:あの頃の私へ】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・菅生 功一 (すごう こういち) 攻め 37歳 傭兵(兼バーのマスター)
・姫川 藤佳 (ひめかわ とうか) 受け 26歳(※真偽不明) 殺し屋
5/24/2024, 12:50:15 PM