和正

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【やるせない気持ち】

いつもやるせない気持ちをどこかに抱えている

タバコに火をつけて、シュウイチは大きく息を吐いた。

それなりに、幸せな人生だと言える。カメラマンとしてそこそこ名を挙げているし、元モデルの美人妻がいる。子どもはふたり、中学生の娘と高校生の息子がいる。二人ともそこまでグレてないし、問題はないだろう。

じゃあ、なぜこんなに不満を感じるのか。

そこそこの富、そこそこの地位、そこそこにやりがいのある仕事。あまり外見には恵まれなかったが、なぜか女には困らなかった。カメラマンとしての仕事だけで食っていけるようになるまでも、ヒモみたいなことをして上手く生きてきた。正直、末っ子としての「危うさ」が女たちの母性本能を上手く刺激してくれたのだろうと、シュウイチは思う。

そうは言っても、おれはいつだって本気だし、真面目に生きているつもりだ。それなのに、夜になるとどうしようもない虚無感に襲われる。そして女を漁る、の繰り返しだ。どうしようもない。

タバコの灰を少し落とし、シュウイチはスマホの画面に視線を落とした。自分が送る私生活の荒れ具合とは程遠い、世界の絶景ばかりを撮るカメラマンのアカウントをいくつかフォローしている。

彼らだって、シュウイチと同じそこそこに汚い道を歩いてきたはずだ。それなのに、彼らのファインダーを通して見る景色は、これほどまでに美しい。

(いっぺん、充電期間と称して旅行でも行きてぇな)

そう考えた瞬間、脳裏にはカナコの顔が思い浮かぶ。最近は娘のレオナの心配ばかりしている。

(不登校なんて、勝手にさせとけよ)

スマホの画面をスクロールして、REONAのアカウントを開く。

(部屋にこもってる間に、こんな才能が花開くなら、学校なんか行く必要ねぇだろ)

その攻撃的な音楽の裏側には、シュウイチや、カナコへの恨みに近い激情的な思いが原動力になっている事は明らかだった。

(アーティストあるあるだな…)

気づけば、タバコがかなり短くなっている。シュウイチはタバコを携帯灰皿に押し付けながらため息をついた。

(負の感情ばっかりが、芸術の燃料になんだ。)

これを、やるせない気持ちと呼ばずになんと呼ぶのだろう―――――。

8/24/2023, 6:03:02 PM