テーマ:泣かないよ #125
「お母さん、僕泣かないよ。だからいつものように笑ってよ。「偉いね」って言ってよ……」
僕は交通事故で亡くなった、女性にそう言っている男の子を見た。その横では父親らしい男が男の子を見ている。何か言おうと口を開くが、何も言わずに口を閉じた。
男の子はまだ小さく、小学生低学年といったところか……。僕はその子をじっと見つめていた。
僕の隣では女性が泣いていた。
声を上げて、顔を手で覆って。
僕は何も彼女に言うことはできなかった。
所詮、彼女と僕は他人だからだ。
僕はもうこの世にいない。
この病院の地縛霊といったところだ。
何度もこういう状況を見てきた。
僕には彼女が見えるが、彼女に僕は見えない。
幽霊と地縛霊は違うらしい。
幽霊は成仏できるけど、地縛霊は成仏できずその場に生き続けるというのが正しいのだろうか。
彼女も幽霊。いずれ成仏するだろう。
僕はそっとその場を後にした。
今日もまた、人間が死んだ。人間は1日に何人もいなくなる。
そして、幽霊として成仏する……大体は。
僕は成仏できない。いつまでここにいなければいけないのかわからない。僕がいつ地縛霊になったかも忘れてしまった。いつ死んだかも、忘れてしまった。
自分は誰なのかさえも……。
『泣かないよ……か』
僕は呟いた。地縛霊だって泣きたくなるときはあるのかと聞かれると、正直ない。
泣いても変わらない現実。
泣いて変わる現実だったら、喜んで涙でも流すのにな。
僕は屋上へ上がると、上を見る。
青すぎる空を睨んだ。
涙なんて、最後にいつ流したかな……。
3/17/2023, 12:21:45 PM