045【夜景】2022.09.18
夜。裏山の農道を弟の軽トラでのぼり、見晴らしのいいポイントで止めた。運転席から外に出て、バタム、と扉を閉めると、足下に、ふるさとの「夜景」が広がっていた。
あそこが実家、あそこは同級生のだれそれの家、等々とはっきりと見てとれる、光の粒もあらく、数もまばら、さほど見栄えもせぬ程度の夜景ではあるが、その灯りのすべての下に、顔を見知ったあの人この人の暮らしがあるのだ、と想像すると、自然に涙がしたたり落ちた。
祖父母の代にはランプ暮らしだったこの村に、電気が通ったのは父が子どもの頃だったという。四季を通じてこうこうたる電気の光と、電線を伝わるようにして流れ込んできた新しい都会的な暮らし。しかし。その便利さと引き換えるように、この村も私たちも、とりかえしのつかぬものを失ってもいた。
家並みのへりに沿い、点々と街灯に縁取られている暗い帯が、用水路。あそこはかつて、蛍の光であふれかえっていたのに。夏になっても、いまはただ、人工の光に照らされるのみだ。
裏山からのこのささやかな「夜景」ですら、このしばらくはずっと、一軒二軒と空き家が増えて、歯抜けになってきているのだという。
村を出た私も、その流れをうながしてしまった一人、なのである。
9/18/2022, 1:57:44 PM