「1つだけ、買ってやるよ」
部活帰りのコンビニ。先輩がそう言ったので、ペットボトルの水をとった。
「そんなんでいいのか」
「今日、俺んち唐揚げなんで」
「あぁ、なるほど。そりゃ唐揚げ優先だわ」
そして先輩は唐揚げ棒を買った。俺の話を聞いて食いたくなったようだ。
コンビニから出てすぐ唐揚げを頬張る先輩に声をかける。
「次、来るときはもっと高いもん買ってもらう」
「何当たり前のようにおごってもらおうとしてんだテメーは」
呆れながら先輩は続ける。
「俺は今日で引退すんだから、次はねえよ」
聞きたくなかった言葉。
俺はまだ部活を続けるのに先輩はもう部活に来ないのだ。なんという理不尽な世界。
「ある。また来て」
「引退したやつがそうホイホイ行けるかよ。なんだったんだ、今日の涙の引退式は」
「だって先輩、」
「いーんだよ。おしまい。最高の青春だった」
なんでそうやって終わらそうとすんだ。
上手い先輩だった。楽しそうにボールを追いかける先輩だった。誰もがまだやめるには早いと思うのに本人だけがすっきりしてやがる。
「楽しかったぜ」
満足そうに先輩が笑う。
水のペットボトルが俺の手で少し歪んだ。
4/3/2024, 1:12:12 PM