いつか。
記憶の中のあなたの顔ははっきりと思い出せるのに。
その先に何を口にしたのか思い出せない。
なんだったっけ。
その先が、オレはとてもとても嫌だった。
今まで出したことないってぐらいの声で怒鳴った。
たぶん、痣ができるまで腕を掴んでしまった。
大事な話じゃなかったから憶えてないんじゃない。
ありえないって思ったから忘れたんだ。
―そんな日絶対に来ません!!
思い出してきた。
たぶんこれはあの人が口にしたとんでもないことに対する否定。
困ったように笑う顔。
それはたぶん、諦め。
それはたぶん、仕方なさ。
しょうがないなって、幼い子どもを見るみたいな。
全部が気に食わなくて、食い縛った歯が音を立てる。
「…………ぁ」
パシリ。
人が四方八方からやってきて四方八方に離れていくスクランブル交差点。
老若男女関係なくうごめく数多の人間の中、手を伸ばす。
掴んだ手首の先、振り返った顔を見た瞬間、あの日言われたことを思い出した。
「……え」
「予想大ハズレ♡」
『いつかおまえは、街でオレとすれ違っても気付かないよ』
ねえ、ほら。
オレの勝ち。
あなたの予想は外れましたよ。
だから、もう離さない。
「見つけますよ、何度いなくなっても」
お題「すれ違い」
10/20/2023, 8:26:33 AM