電柱にとまっていたカラスが突然一斉に鳴き同じ方向へと羽ばたいていった。
静かだった鴉たちが、まるで何かを察知したかのようなその様子を不気味に感じる。
何時もとは違う空気に違和感を覚えながらも、そのまま歩いていると街ゆく人の会話が聞こえてきた。
「あーまたはじまったな」
「今日は何処だ」
「荒れるなぁ」
どうやら、その異様な光景は、この街では当たり前のこととして扱われていた。そして『またか……』という反応が大半だった。
「嬢ちゃん、はじめて見る顔だな。越してきたばかりか?」
「はい……」
突然、男の人から声をかけられた。そのひとは40代くらいだろうか渋く厳つい雰囲気をしていた。
「あの……、なにかあるんですか?」
「勘がいいな。―――だよ」
「っ……」
さりげなく耳元で囁かれた言葉は外では口に出せないようなものだった。
「気ィつけろ」
「気をつけろって言ったて、どうしたら……。急に言われても」
「だから、カラスが合図だ」
「今日みたいな日はすぐ家に帰れ。怪しいと感じたら勘を信じろ」
力の籠った声に静かに頷くことしか出来なかった。
「その制服、良いとこの学校だろ。巻き込まれんようにしろよ」
ただそう言い残し去っていった。
大人な所作に少しドキドキしつつも、私は早足で家路についた。
『時を告げる』2023,09,07
9/7/2023, 6:19:55 AM