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『どんなに離れていても』

愛を伝え合ったことは一度もない。
彼だけが抱える孤独を理解できたと思ったことは最後までなかったけれど、彼の美しい瞳に確かな翳りを見た時、私だけは忘れないようにしようと思ったのだ。
何もなくても良かった。私だけが知っていることでもなかったのかもしれない。でも、彼の心を慮ることを、私だけは絶対に忘れてはいけないと思うことが、そう思うことを許されていると思える瞬間が、私には大事だった。
誰にも踏み込ませない、誰も踏み入ることのできない、彼の領域。
そこに目を向け、心に触れたいと思うことが許されているだけで良かった。

この世で最も強く、最も美しく、そして最も孤独な人。
どんなに離れていても、もう二度と会えなくても、私はあなたを忘れない。強さゆえの傲慢な態度に隠された、誰よりも美しく、崇高な魂を忘れない。

4/26/2025, 11:05:24 AM